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自己肯定感を高めようとは言うけれど……/女に生まれてよかったですか?! vol.2

vol.2 【プロローグ】 :自己肯定感を高めようとは言うけれど……

「40歳までにオシャレになりたい!」連載で好評を博した人気ライター・トミヤマユキコさんの新連載第2回が更新(前回はこちらから)。前回は就職、結婚、出産、育児など社会においてさまざまな分岐点がある女の人生について考えましたが、今回はそんな分岐の多い「私」とどう向き合うかがテーマに。「自己肯定感」という言葉をキーにしながら、「自分を好きになる、認める」方法についてトミヤマさんならではの柔軟な考えが語られます。

「自己肯定感」という言葉を目にする機会が増えた。

自己肯定感は「高い/低い」で表現され、低いとよろしくないのでなるべく高めるべし、ということになっている。似たような言葉に「自尊心」があり、こちらも低いよりは高い方がよいとされる。自己を肯定すること、自らを尊ぶこと、どちらも生きていく上でとても大事なことだ。そこに異論はない。

ただ、一般に子どもの自己肯定感は高く、成長過程で削られていくものらしいので、自己肯定感の低いひとは「さまざまな経験を重ねて立派に成長した大人」と言えなくもないし、だとすれば、自己肯定感の低さを即座によろしくないと決めつけるのは違う気が……。「低い! ヤバイ! 高めなきゃ!」と焦る前に、自己肯定感がどのようにして低くなったのかを一度じっくりチェックする必要があるんじゃないだろうか。それをしないで、いきなり自己肯定感を高めようとするのは、ふにゃふにゃの地盤にいきなりタワマンを建てるようなものなので、危なっかしい。

——なんて、偉そうに書いたが、他ならぬわたしがかつてそれをやっていたのだ。人生が不安で不安で仕方がなかったニート時代(10年ほど前です)、「しょこたん」こと中川翔子さんのライブDVDを見てなにかと凹みがちな自分を鼓舞していたのだが、今となってはあんな風にしょこたんを観賞してはいけなかったと反省している。

ご存じない方に一応説明しておくと、しょこたんは幼くして父親を亡くしたり、学校でいじめられたりと、ハードな人生を送っている。しかし、彼女はそんな自分の過去をしっかり振り返った上で「貪欲」をモットーとするアーティストになった。だから彼女の貪欲さにはとてつもない説得力があり、観ているとこちらまで元気になってくる。当時は、毎日『しょこたんぶろぐ』を読み、DVDを泣きながら観ることでどうにか生き延びている感じだった。

わたしが反省しているのは、そうした生活態度があまりにも対症療法すぎた点である。「わたしなんてダメだ」とか「将来が不安だ」とか思ってしまう理由を深掘りすることなしに、ただただ焦燥感を払拭したくてしょこたんを追っかけていた。彼女が身を挺してつらい過去と向き合い、自分を変える方法を教えてくれていたのに、その上ずみだけを吸っていたのだ……。10年前のわたしはバカだ。あんなことで真の貪欲ライフが手に入るはずもない。しょこたんに謝りたい。

自分に自信が持てない時、折れないように支えてくれる誰か/何かはとても大事だ。でも、ギリギリ折れないのをいいことに、自己分析を避けてしまうと、折れそうな感じをずーっと抱えたまま生きていくことになる。

だから、どこかのタイミングで自己肯定感の具合をチェックするのはとても大事だ。ただ、チェックの結果、思いのほか自己肯定感が低くても慌てない方がいい。低いものを高めるにはそれ相応のエネルギーが必要だが、日々の生活で精一杯のひとに残されたエネルギーはごく少ない。自己啓発に飛びついたり、自虐で笑いを取りたくなってもグッと我慢だ。やみくもにがんばったところで得られる成果が少ないし、無駄に動き回るといよいよライフがゼロになってしまう。みんなもう十分に人生をがんばっている。その上さらに努力をすることになれば、精神的にも肉体的にも追い詰められかねない。まずは、ただチェックするだけにとどめておくのが安全だ。

わたしだって、自己肯定感チェックに取り組んだ結果、キャリアに対する不安と、モテないつらさと、忘れた頃にふと現れる承認欲求が自分を凹ませているとわかったけれど、それがわかったところで克服できたかと言えば全然である。いまだに仕事は不安定だし、引き続きモテないし(誰だ!結婚すると逆にモテるとか言ったやつは!全然モテねえぞ!)、ときには誰かに褒められたくて悶々としている。なんのことはない、昔と同じ自己肯定感の低さを抱えたまま、目の前の仕事をやり、目の前の人生を生きているのである。

でも、なにが自分を凹ませているかわかっているので、かつてのような焦燥感はない。低め安定。ちなみにこれは雨宮まみさんの著書『女子をこじらせて』を読んだとき「ああ、わたしはこじらせ女子なんだ!」と思ったものの、こじらせ女子を卒業しなかったこととよく似ている。自分が何者なのかわかっただけで、なんだかホッとしたのだ。自分のややこしさに名前がついたことで、もうわけのわからない不安と対峙しなくてよくなったのが、とにかくありがたかった。

そんなわけで、正直なところ「低くても超充実」みたいなパターンもあるならそうしたいし、高いところに行かないと幸せになれない、という強迫観念からはできるだけ距離を取りたい。だいたい、自己肯定感が低い原因が、この社会に根強く残るルッキズムや女性差別にあったりしたら、「社会のせいで削られたのに、あとは自分でなんとかしろってどういうこと!?」とならないだろうか。自分を変えるまえに社会が変わってくれよという話である。

また、わたし個人は「すでにあなたは美しい、というかこの世にブスはいない、自信を持て」みたいな言説にもあまり馴染めない。みんな何らかの美しさを秘めているとは思うが、顔面偏差値に限定して言えば、モデルや女優みたいなプロ美人にはどうしたって負ける。美の基準はひとそれぞれ、という言葉に頷けるほど素直な人間じゃなくてスミマセン。

大したことない自分を抱きしめる。それが自己肯定の第一歩であるならわたしはよろこんでやるだろう。その結果、ふにゃふにゃの地盤が固まって「せっかくだしなんか建ててみるか」という気持ちになれたら儲けものだけど、まあ、タワマンなんか建てなくても「地べたに花を植えてみたらかわいかった」ぐらいで満足できたらそれでいい。高みに登るだけが人生とは思わない。もちろん、登りたいひとは登っていいし、その努力は心からリスペクトするけれど、みんながみんなそうしなくてもいい。低いところから見える景色にだって美は宿っているのだから。

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連載をはじめるにあたり、2回にわけてわたしの考えを書かせてもらったが、次回からはいよいよゲストをお招きしてのトークが始まる。初回ゲストは、わたしがいま一番自分らしく輝いていると感じている方だ。自分らしく生きるとはどういうことなのかについて、ひとつひとつ考え実践する様子がとにかくかっこいい。年齢的には年下だけれど、めちゃくちゃ尊敬しているので、いろいろと教えを乞いたい。

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vol.1 【プロローグ】:2020年、いよいよ女のことがわからなくなって参りました

トミヤマユキコ  
1979年生まれ。ライター、東北芸術工科大学芸術学部講師。ライターとして日本の文芸、マンガ、フードカルチャー、ファッション等について幅広く執筆するかたわら、大学ではマンガ研究者として「少女マンガが女性労働をどのように描いてきたか?」を調査・研究している。著書に『夫婦ってなんだ?』(筑摩書房)『40歳までにオシャレになりたい!』(扶桑社)『大学1年生の歩き方』(共著、左右社)『パンケーキ・ノート』(リトルモア)がある。