バイヤーが惚れ込んだブランドを徹底取材! BRAND feature 第12回「PIPPICHIC」 トレンド感+上品さの絶妙バランスで靴ラバーを虜にする“ピッピシック”の人気の秘密を解き明かします。
今年でブランドスタートから20周年を迎え、ますます人気ブランドへと進化し続ける“ピッピシック”。大人が日常に「欲しい!」「履いてみたい!」と思える靴はどうやって生まれるのか? ご自身もおしゃれと大評判のデザイナー佐藤葉子さんに、靴づくりへのこだわりから、2022AWおすすめコーディネートまでご披露いただきました!
ブランド創設から早20年になりますね!
こんなに続くなんて思っていませんでした(笑)。今から20年前ってブランドを立ち上げようなんて人はまずいなかったですね。ましてや靴のブランドなんて! 当時は、日本の靴ブランドで欲しいものがなく、海外ブランドならあったのですが値段がすごく高く、まともな仕事している人は到底買えないと思って。縁あって靴の工場を紹介していただく機会があり、だったらやってみようかな、と始めたのがきっかけ。ここまであっという間でした。
途中でやめようと思ったことはありましたか?
それはなかったですね。しんどかったけど。見ているときと自分で作るのでは大違いでしたね。なにしろ、職人さんに感覚が伝わらなかったんです。最初は絶対わかってもらうぞ、と気張って臨んでいたのですが、微妙な形とか、ニュアンスとか、同じ日本語なのに通じ合えない(笑)。それをお互いにわかり合えるまで本当に大変でした。でもこっちもしぶといですからね(笑)。20年続いたのは私のしぶとさを聞き入れて、こだわってカタチにしてくれた職人さんのおかげだと思います。もともとブランド名は「ピッピ」でしたが、商標の関係があって「ピッピシック」に名前を変えたのが13年前ぐらい。34歳のスタート当初から、今もずっと自分の年齢にリアルなものを作っています。
デザインする上でのこだわりはどんなところですか?
ブランドスタートのときから、靴だけをデザインするのではなく、洋服のトレンドと履いた時の全体のコーディネートを考えてデザインしています。こういうファッションをこういう服を着たいから、どんな靴がいいかな、ということを常に念頭に置いてデザインをしています。
2022AWはどんなイメージですか?
「ボリューム&フィット」をテーマにしています。今回は秋冬なので、コートなどの重衣料とのバランスで、靴に何が必要かを考えました。ここ数シーズン、靴のトレンドはボリューム感できていましたが、私は一足の靴の中で“ボリューム+フィット感”がある方が洗練されたバランスになるのでは?と思って。私の靴の特徴は、大人の女性がきれいに見える、かっこよさ。カジュアルだけどどこか根底にフェミニンさがあるところだと思います。
今シーズンの一番の注目は?
ブーツですね。ボリュームがありながら、フィット感もある女らしいバランスに惹かれています。例えばこの白いブーツ。今までとの違いは、コバをあえてデザインしてボリューム感をもたせました。足元にボリュームを持たせれば、重量感のある秋冬服ともバランスがよく、きれいにまとまります。ヒールは、マット塗装でモダンに仕上げました。履き口を二重にしているので足入れも柔らかくて歩きやすいんです。
驚くほど素材がソフトですね!
実際に履いたときの足入れがまろやかで気持ちよく、まるで履いてないみたいなんです。ぜひこの感覚を味わって欲しいですね! とにかく柔らかく伸びて、本当に履きやすいですよ。素材は皮に見えますが、ストレッチが効いた合成皮革で、伸び方のソフト感、肉厚感、表面の質感がとてもよかったので、こちらの素材を使用しました。今は本当の革でなくてもいい、という時代になり、今までと意識が変わってきましたね。
パンプスも同合成皮革ですね。
はい、こちらも同じです。足を入れるとピタっと沿って、軽いんです。特に甲がストレッチ感があると、フィット感もよく、スニーカーというかエスパ感覚で履きこなせます。白だと雨の日は敬遠しますが、合成皮革のこちらなら大丈夫。SSから展開しているデザインで、シーズンを問わず活躍してくれます。ニュアンスのあるホワイトもコーディネートに馴染みます。
今シーズン、ブーツのバリエーションが豊富ですね。
こちらの黒いブーツも「ボリューム&フィット」の代表的なタイプ。厚底でかなりボリュームがあるけれど、筒はピタっとフィットしているので大人っぽく履きこなせます。ショートブーツ(左)は、よりカジュアルなラバーソールにして、滑りにくくしています。
今年らしいニーハイ(右)は、トレンチコートのスリットからチラ見せするのもかっこいいし、ワンピースと合わせるのも好きなんですよね。歩きにくい印象のあるニーハイですが、ストレッチが効いているので動きやすく、足もきれいに見えるんです。
やはりロングブーツは今シーズンマストですね!
こちらのブーツはリピートのデザインの新色グレージュです。品のよい色合いで、茶にも黒にも合うし、足元にグレージュを持ってくるとコーディネートがとても今シーズンぽくなります。いつもより若干丈が長めでに。シンプルなロングブーツの場合、履いたときに膝下がいかにまっすぐきれいに見えるのかが重要なポイント。長いブーツにありがちな座ったときに、膝の後ろ部分が折れるという欠点も解消した、イタリア製の非常にいいレザーを使用した非常にソフトなブーツです。自立して立つコシもあるけれど柔らかなところが特徴です。ヒールは、インテリア好きの私らしくカッシーナの椅子のような革巻きを採用してステッチなどのディテールも美しいです。
昨年人気だったレースアップのブーツも進化していますね。
これはリモデルされていて、タンクソールとヒールが一回り大きく、ラバー加工にしています。甲と足に当たるタンは、厚地のクッションになっているので、当たりがよいだけでなく、立体感が生まれ素敵見えるよう工夫を施しています。ディテールひとつにもこだわりが詰まった一足なんです。
ロングセラーのローファーも今年顔に進化していますね。
ローファーは、3シーズン目になります。最初はプレーンなデザインで、次が厚底、今回はタンクソールもヒールや底周りをボリュームアップしリモデルしました。このスクエアトゥと、ビブラムのカジュアルミックス感が今っぽいかな、と。ローファーってちょっと気を抜くとスクールっぽくなっちゃいますが、新しい木型を採用してモードっぽくリニューアルして新しい香りを加えています。ローファー苦手な人も履きやすいと思いますよ。なにしろ木型が一番のポイントだったんです。あまり幅を広くせず、何度も作り直して、やっと出来上がった木型です。ベルトの部分は伸びを想定しややキツめに設定。一見ごついのですが、シェイプしたシルエットが女性っぽく、佇まいがきれいなのが特徴です。
モコモコした可愛いぬいぐるみみたいな子は?
これはドイツ“シュタイフ”のテディベアと同じ素材なんです。余談ですが、テディベアって認定された素材でしか製品を語ることができないんですよ。アレルギーの子にも使えて、毛が抜けることもない上質な素材なので、靴にも適しているなと思いまして。2022の春夏は、同じデザインでレザーをやりましたが、秋冬なのでテディベア素材を使ってみました。足入れが深いので安定感もあり、歩きやすいんですよ。夏から秋口に、Tシャツ&デニムの足元にテディベアサンダルを合わせたら、秋気分かつ大人の可愛さがあって素敵ですよ!
履くとソールにもクッションが入り、細かいディテールにもこだわりと感じます。
インソールには、高反発のクッションを入れているので履きやすいと思います。私のデザインの特徴としては、ノーズが長いのが最近とくに好きで。薄くて長いのが好きですね。
毎シーズン人気のフラットシューズは素材に特徴がありますね。
この黒いパンプスは、ジャッキーテックスという生地なんですよ。ジャクリーン・オナシス。ケネディをオマージュして復刻した生地で、彼女が愛用していた黒ラメのシャネルスーツからインスパイアされた素材です。私「華やかな黒」が常に好きなんです。黒い生地はどれだけ派手でも靴にするとかっこいいな、と思っています。
レオパード柄はインテリアに使われるスペイン製の生地を使っています。インテリアの生地って、強度があり、昔からよく使っています。レオパードってなかなか品のある色合いや柄が少ないけれど、この生地はすごく気に入っていて、2シーズン目になります。
靴をデザインするときに、どうやってアイデアが浮かぶんですか?
靴の仕事に携わる前は、デザインがすべて、と思っていたのですがそれは大間違い。実際に作り始めてわかったことは木型の重要さ。佇まいのよい靴になるかどうかは、木型の完成度によるんです。人間でいう骨格というか、姿勢がよければ洋服って映えますよね? それと同じでデザインも大切ですが、なによりも木型なんです。木型の完成度が低いと野暮ったくなるんですよ。木型の段階で、美しいバランスの幅やフォルムを考え、必要ない箇所を削りに削って華奢なシルエットをつくるとか、そういうところこそ一番重要だと実感してこだわっています。今まで作った木型はすべて大切にストックしてあります。新しく作るだけでなく、前にデザインした木型を復刻もしています。生産はすべてメイド イン ジャパン。素材は、海外と国内の両方で、イメージに合ういいものが見つかればどちらも使っています。
今シーズンのコレクションから、ひとつひとつ靴へのこだわりを語ってくれた佐藤葉子さん。佐藤さんが作るピッピシックは、大人の可愛さと履き心地も考えたラグジュアリーさ、そして履くだけでお洒落に見せてくれるモード感もあるところがファンを引き付ける理由である。
撮影/長田克也〈aosora〉 取材・文/土橋育子