バイヤーが惚れ込んだブランドを徹底取材!BRAND feature 第6回「TOFF&LOADSTONE」軽さと高級感を兼ね備えたバッグ
オールハンドメイド、日本製にこだわり、高品質で真正直なバッグづくりで人気を誇る「TOFF&LOADSTONE」。お洒落のプロたちはもちろんのこと、セレクトショップの敏腕バイヤーに多くのファンをもち、数多くの名作バッグを世へ送り出しています。そんなバッグづくりへのこだわりを、デザイナーの坂井一成さんにお伺いしました。
TOFFのアイコン真鍮へのこだわり
弊社のバッグは真鍮金具自体がアイコンになっているので、ブランド名は一切入れません。金具を見ればTOFFのバッグというのがわかります。
ブランドをスタートしたときに、私自身、既成の金具がどうしても嫌で、付けるなら、趣があり、アンティークのような風合いがあるものにしたかったんですね。金具ひとつで一味もふた味もよくなるものがいいですよね? お出汁と一緒です。そこはコストがかかっても、クオリティを上げるしかないな、と思いまして、 真鍮鋳物に行き着きました。
真鍮は手に持ったときに柔らかいんですね。真鍮は銅と亜鉛の合金(6対4程度)で、メッキした色とは異なります。通常こういう金具って、ほとんどが鉄などにメッキを施したものです。メッキしたものとは全く質感が違います。真鍮は経年変化が美しく錆びませんが、そのままだと黒ずんでくるので、仕上げにメラミン樹脂を2度コーティングしています。それによって色の変化がしにくいんです。
真鍮の形にもこだわりが
どうやってつくられているのかというと、人類最古の技法である「砂型手込め鋳造」です。もはや日本でできるところは数えるほどしかありません。これは模型で石膏(写真)ですが、実際には砂でやっています。土を均等にして固め粘土状態にした後、鉛で作った型を置き、溶かした金属を流し込みます。反対側も同じようにして合わせます。それを、ひとつひとつ切って、磨いて、その後バルブの中で軽石と一緒に8時間揉んでいくまでが形をつくる作業です。ひとつ作るのに時間も手間もかかります。
私がデザインした形を、職人さんが木製でつくり種型にしています。なぜこのような丸みのある形かというと、砂なので直角はつくれないし、金属を流しづらい形だと製造できないのです。ですので一般的な金型とはちょっとちがうんですよ。丸い卵みたいな輪郭から、温かみがある独特の風合いが醸し出されます。
ちなみに、原材料は古い水道管などの廃材で非常にサスティナブルなのです。真鍮って錆びないので、水道管や配管、マンホールとかに使われています。それを1100℃の高温で溶かして使います。使わなかった枝の部分はまた溶かすので、無駄が一切ないんです。
ディテールへのこだわりは真鍮だけにあらず
例えば、このショルダーバッグのタッセルの部分。通常は1枚の革を短冊にして丸めるだけですが、弊社はそのレザーを両面に張り合わせ強度を高めています。本当はそんなことをしなければコストも下げられるのですが(笑)私が嫌いなのです。1枚革だけですと、経年変化で乾燥すると切れてしまったりすることがありますよね? それでは残念ですから。
素材へのこだわりも教えてください。
レザーは、北米産です。日本製の革は柔らかすぎてバッグには向かないので、北米産の革を姫路で加工しています。それ以外はなるべく日本製を使用しています。リザードの型押しレザーは、牛革を使っています。本物のリザードは、牛革に比べて独特の光沢があります。それを染めた後メノウで磨いて光沢を出すのがエキゾチックレザーの特徴なのですが、それをバッグに使うと価格も高くってしまいます。ゆえに牛革に型押しをし、フィルムをラミネートするという技法を考えました。よくエナメル加工ってありますが、あれだと光沢が強くギラっとしすぎるので、この技法ならちょうどよい質感に仕上がります。
織物生地は、ポリカーボネートフィルムのラミネート加工を施しています。キャンバス素材の嫌なところは、汚れやすいのと、経年で深くシワが刻まれていくところ。生地の裏側には特殊な発泡ゴム加工を施しているので、型崩れもなく、シワがついても元通りに戻り、バッグが空の状態でも形が変わらないという優れものです。
色出しへのこだわりは?
黒やアルパインホワイトは染めた状態を型押しし、加工を施せばフィニッシュですが、この新色のココア、エクリュ、定番のアイスグレーは、色ムラを出すようこだわりました。下地にある程度色をつけてから型押しし、その革に手塗りで職人が濃い色をつけて濃淡を出します。独特の色ムラをつけてからラミネートすると、本格的な質感や風合いが出てきます。
バッグの裏地素材のこだわり
最近のスタンダードは桐生産のジャカードです。バッグのセオリーとして裏地には、コストを下げるためにレーヨンを使いますが、水に弱く色落ちするのが難点です。そこで考えたのが、縦糸がナイロンで、横糸はポリエステルのカチオン糸という特殊な糸のジャカードです。バッグの色によって、色は変えています。
一番売れているのは?
こちらの『Review(レヴュー)』というショルダーバッグです。8年ぐらいになりますね。当時はケータイしか持たないという時代ではなく、長財布が入るものが基本でした。初回は大きな反響はなかったのですが、時間が経つにつれて売れてきましたね。弊社のバッグって不思議なところがあって、1シーズン目より2シーズン目からの方が売れるんですよ。
働く女性に愛されるベストセラーは『Jolie(ジョリー)』
先日弊社の「HAPPY PLUS STORE for loyal」で着物にももてるバッグをSサイズで別注させていただきました。
オケージョンのきちんとした場所からアフターまで持っていけるというのが特徴です。女性って要求がすごく多いですよね? 朝出かけて夜帰るまで、またオンにもオフにも使えることを意識して作ったので、基本はカッチリしていますが、あまりお仕事すぎないようにデザインしました。こだわりはこのハンドル。普通ハンドルって根革みたいのがついていますが、自然に生えているような持ち手が作りたかったんです。通常のハンドル付けではできませんので、インポートのメゾン系ブランドでもよく使われているポストミシンを使います。外側から縫えるミシンなので、シャープな輪郭も出るので、ハンドルもシャープさが生まれます。
またもうひとつこだわったところがバッグの両サイドにあしらったシークレットマグ。デザイナーの勝手な思いがありまして、女性の方にはバッグの開け締めを美しくして欲しいんです(笑)。女性って、ファスナーが付いていても締めていないですよね? 中が丸見えになってしまうのを避けたく、シークレットマグを付けて自然に閉まるようにしました。これは共通パーツですが、金属のマグが外に見えてしまうので高級感がないので絶対に革で全部くるみます。手間がかかるので職人さんに嫌がられますが(笑)こだわりました。
アイコニックな柄が人気『Review 19(レヴューナインティーン』
プリント柄もすべてオリジナルです。このプリント柄は、19世紀のアメリカのテキスタイルブックに載っていた柄を自分なりに解釈し直したもの。柄にもひとつひとつこだわっております
注目は、ユニークなフォルムの新作『Heptagon Lizard(ヘプタゴン リザード』
ヘプタゴン=七角形というバッグは、弊社の女性デザイナーが担当したものです。実際に模型を作り立体裁断しました。独特のフォルムが特徴で、トートバッグは基本四角が当たり前ですが、これは新しいフォルムとしての提案です。奥行きがすごく広いので安定感があります。こちらの型押しリザードは、弊社の3種類あるリザードのうち一番硬いものを使っています。裏側は、ポリエステルのスエードがちらっと見えていますが、ひとつひとつパーツが別になっており、すべてに裏打ち加工を施し、縫い合わせています。貼り合わせるため芯を付けられないので、ある程度硬さが欲しいんですね。最後の味付け真鍮の飾り。トラッドな馬の鞍のハミをイメージしています。
こちらの真鍮はシルバーなんですね? よく聞いてくださいました! こちらも真鍮なのですが、 ニッケルのメッキを施しています。シャープな感じにしたいときはこちらを使用します。真鍮の鋳物とニッケルの相性ってすごくよいんですよ。何年経っても輝きが失せないんです。ベースが鉄だと褪せて曇ってくるんです。ずっときれいって、バッグを長く使う上で非常に重要なポイントです。
バッグのブランドを始めたきっかけは?
ブランドがスタートしたのは2004年の3月から。もともとインポートのファッションが大好きで「こんなデザインあったらいいな」と車だったり、服だったり、自分の妄想を描いているような子供でした。18歳のとき「シップス」の前身である「ミウラ&サンズ」という伝説的なセレクトショップでバイトをすることになりまして、それが80年代ぐらい。途中から、デザインを本格的に志すようになり、エスモードジャポンの一期生になりました。3年間の在籍中は、ロンドンやパリに行きたくさん吸収しましたね。その後はメンズのアパレルとレディスのプレタポルテを30歳ぐらいまでやっていました。ところがある時期、ビジネスとしての服に限界を感じまして。というのも、せっかくデザインした服を3〜4ヶ月でセールになるというのに疑問を持ち始め、もっと長く売れるモノってなんだろうと思いたったのが、バッグだったのです。
それからバッグ人生に入ったのですが、最初は苦労しました。洋服とバッグってものづくりにおける考え方もまったくちがうんですね。1年ぐらい食べられない期間がありましたが、当時お世話になっていた会社の息子さんと会社を作りました。その後は軌道に乗り順調でしたが、理想を追い求め独立し「TOFF&LOADSTONE」が誕生しました。
ブランドの名前の由来は?
とにかく昔からイギリスが大好きで、イギリスっぽい名前にしたいなと思ってスラングなど調べていましたら、TOFF=洒落者を見つけて「これいいな!」と思いました。ちなみにLOADSTONEは米語です。イギリスに行くと、ビューロードチェンジのように外国語とミックスした言葉を使うことが多いので、私は英語と米語をくっつけてみようと思ってこの名前にしました。LOADSTONE=惹きつけるもの、磁石、という意味もありちょうどよいなと。イギリスのクラシックさとアメリカの合理が融合した、クラシックモダンというのも基本コンセプトになっています。
ブランドのコンセプトはどうやって決めたのですか?
ブランド名のクラシックモダンが基本ですが、僕自身、出身が完全にトラッドだったので、伝統のニュアンスはどこかに入れたかったんですね。日本人は基本トラッド好きですよね。
最新作の2wayバッグ「Combo(コンボ)」
弊社でも一番人気のレヴューリザードとはまた違った魅力のミニバッグが生まれました。バニティバッグのアイコニックなインパクトと実用性が共存しています。ポケットのように見える蓋部分は、取り外せてミニポーチとしても使えます。交通ICカードなどを入れて、スマートにタッチするこもできます。
隠れたベストセラー、運気の上がるお財布
馬蹄モチーフの長財布は初代から10年ほど続くロングセラーです。山羊革とリザードの型押しの2種類ありまして、山羊革の方が最初。現在メインはリザード型押しです。特にゴールドは、縁起担ぎとして非常にご好評をいただいたいます。
こちらは山羊革のシボなので、派手すぎないところも人気のようです。雑誌のお財布特集に未だに掲載してもらっているほど。何も意識せず作ったのですが、この馬蹄の金具も風水的にお金の流出を防ぐと言われていて、何度も雑誌のランキンググランプリになったことがあります。小さいお財布が人気の昨今でも、弊社の長財布は人気で、どんどん使い勝手も改良されています。ガバっと広げられて使いやすく、これが芯のようになって小銭が出し入れしやすい。カード入れも3段あり、長きに渡って人気です。
ファスナーにもこだわって、YKK最高級のエクセラを使用しています。その違いは何かというと、表面がバリバリせず、触ってもなめらか。しかも弊社では、シングル方向でもあえてダブルを使っているのが美しさへのこだわりです。
長財布と並んで最近人気なのが3つ折りタイプ。こちらも非常に使いやすく、価格的にもお手頃。コストがかかっても弊社は日本製にこだわってモノづくりをしています。仕上がりが確実に違いますので。
今後の方向性は?
トフは日本の大切な技術を守りながら、新しいものに常にチャレンジする「未来の老舗」を目指しています。ものづくりとしては、軽さを追求するのがバッグの宿命です。軽いけど高級感もあり、自立して置けるバッグ。今季はホーボーバッグが復活しそうですね。(坂井一成さん談)
TOFF&LOADSTONE
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撮影/岡本卓大 取材・文/土橋育子 構成/内山しのぶ