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女に生まれてよかったですか?! vol.1

vol.1 【プロローグ】 :2020年、いよいよ女のことがわからなくなって参りました

HAPPY PLUS STOREリニューアルを期に、「40歳までにオシャレになりたい!」連載で好評を博した人気ライター・トミヤマユキコさんの新連載がスタート。ここ数年で、#MeToo、#KuToo、医学部不正入試問題、自己肯定感をめぐる議論など、女性にまつわるさまざまな言説や問題が溢れ出てきました。今日本で、女性として生きていくこと。人によって振れ幅は違えど、ふいに頭に浮かぶ「?」ありませんか?
そんな今一番気になる「私たち」=女性自身について、トミヤマさんが考えます。

「女に生まれてよかったですか?」と聞かれてすぐさま「YES」と言える自信がない。いや、わたしという「人間」のことは、そこそこ気に入っているのだ。かれこれ40年ちかい付き合いだから、さすがに愛着も湧く。でも、「女」であることに的を絞って「どう?」と聞かれると「うーん、どうなんだろう?」となってしまう。

女以外の性になったことがないから、なんとも言えないなあ。同じ女でも、生まれる時代や国が違えば、また違ってくるんじゃないかなあ。ていうか、そこまで大きな話じゃなくても、たとえば長女と次女ですら違いがありそうだよねえ(終わりなきゴニョゴニョ)。

女に生まれたのに、女がわからない。そんな感覚。おばあさんになってもこのままだったらどうしよう。

女のわからなさは、女の人生がリニアじゃないことにも起因している。進学、就職、恋愛、結婚、出産、などなど、女の人生にはさまざまな分岐点が待ち構えていて、なにかを選ぶと「選ばなかった方の人生」が出現するシステムになっている。そして「選ばなかった人生の方が正解だったんじゃないのか?」なんて不安に苛まれたりもする。しかし、引き返してやり直すのは至難の業なので、答え合わせができない。

社会の趨勢も大きく影響している。わたしはふだん大学の教員をやっているが、「卒業したらとりあえず社会に出て、ワーキングガールとして自分がどこまでやれるのか知りたい、結婚するのはその後でいい」という声は年々小さくなり、「卒業したらすぐに結婚したい、専業主婦こそが真の勝ち組」という声がどんどんデカくなっている。仕事を通じた自己実現はもはやオワコンなのか……わたしの学生時代とはずいぶん違うな。ほんの20年で、女の価値観はこんなにも変わる。ということは、この先も変わるのだろう。なにが正解かなんて、一概には言えない。

もちろん、男の人生だっていろいろあるぞと主張する人もいるだろうし、それを否定するつもりは毛頭ない。しかし、たとえば職場結婚をしたら妻だけが辞めるだとか、産休育休は妻の方が長く取得するだとか、そんなケースはいまだにたくさんあるわけで、キャリアひとつとっても、女が真っ直ぐな道を行くのは難しい。いろんなルートを選べるのは考えようによってはいいことなのかも知れないが、望んでないのにルート変更を強いられるのは正直勘弁して欲しい。

というわけで、正解なき女の人生をどうにか生き抜くべく、わたしたちは常に参考となりそうな人物を探している。悪路の走行がうまい人、分かれ道での判断が的確な人。逆に、事故った話を聞くのもいい。どうやって九死に一生を得たのかを知るのも、ものすごく勉強になる。

そんなロールモデルなんて必要ない、人それぞれでいいじゃないか、なんたって多様性の時代だぞ、という考え方もあるとは思うが、独力で自分の人生をまるっと全肯定できるほど強かったら苦労しない。かと言って、誰かさんの人生をただなぞるのも芸がない。それってなんだか自分をネグレクトしているみたいだし……。

自分らしさを大切にしながら、ゆるやかに成長・変化したい。

そんな願いを抱くあなたのために、この連載を始めたい。具体的には、わたしがいろいろな人に会いに行く。迷ったり、悩んだり、事故ったりしながら、それでも走り続けている人に会いたい。これまでどんなルートを走行してきて、どんな風景が見えているのかを聞きたいし、「ああ、ここがパンクの痕ですか、こりゃ大変でしたね」みたいな話もしたい。キラキラした部分だけ見せてもらうんじゃなくて、過去の古傷にもちゃんと寄り添いたいと思う。

そして、できることなら最後に「女に生まれてよかったですか?」と訊きたい。答えは「YES」でも「NO」でも、あるいはそれ以外でも大丈夫。なぜって、キラキラと古傷の両方を見せてもらった後なら、どんな答えであっても、その人らしいと思えるだろうから。さらに言えば、その答えは、わたしたちの「最短ルートで正解に辿り着かなきゃ」という焦り=呪いをやさしく解体してくれるだろうから。

トミヤマユキコ  
1979年生まれ。ライター、東北芸術工科大学芸術学部講師。ライターとして日本の文芸、マンガ、フードカルチャー、ファッション等について幅広く執筆するかたわら、大学ではマンガ研究者として「少女マンガが女性労働をどのように描いてきたか?」を調査・研究している。著書に『夫婦ってなんだ?』(筑摩書房)『40歳までにオシャレになりたい!』(扶桑社)『大学1年生の歩き方』(共著、左右社)『パンケーキ・ノート』(リトルモア)がある。