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人生は一冊の本。顔はその表紙なのかも。/小島慶子

誕生日にワクワクしなくなったのは、いつからだろう。

かつては毎年誕生日が来るたびに「この新しい数字はどんな意味を持つのかしら?この1年、どんな思いがけない出会いがあるかしら?」と胸躍らせていました。人生という本の新しいページをめくるようなときめきがあったのです。

ページの隅々まで読み込んで、その数字がしっくりするまで繰り返し味わったものです。17歳の私、とか30歳の私、とか。

それがいつの間にか、毎年節目なく地続きになりました。加齢が特別な出来事ではなくなって、ようやく人生という本の主人になれた気がします。

同時に、もう本を全部読んだ気にもなっていました。この人生がどんなもんか、だいたい見当はついた。ここまで来たらもうこの先、ときめくような大きな変化は起きないだろう。新しいことが始められるはずがないし、始めたところで大した成果は出せないだろう、と。既読のページが増えるほど、人生の新鮮味は失われると考えるようになったのです。

人生は一冊の本。顔はその表紙なのかも。/小島慶子
ワンピースKALANCHOE(カランコエ)
@kalanchoe_jpピアス&ネックレス@blanciris_official

でも、そうじゃないんだと思わせてくれる言葉に出会いました。

先日、アメリカの特殊メークアップアーティスト、カズ・ヒロ氏に密着取材したドキュメンタリー番組を見ました。氏は2度もアカデミー賞を受賞しているハリウッドの特殊メイクの第一人者であり、その技術を使って著名人のシリコン製の巨大な胸像を制作する、現代アートの作家でもあります。

最新作は、オードリー・ペプバーンの胸像。映画『ローマの休日』に主演しスターの階段を駆け上っていた20代の頃の彼女と、慈善活動に身を捧げた60代の最晩年の彼女。二人のオードリーを並べた作品です。髪の一筋、頬の生毛に至るまで克明に再現した胸像は、今にも喋り出しそうな、確かにそこに彼女がいると感じさせる迫力があります。

俳優・シャリーズ・セロンが、作品を見に訪れます。彼女は映画『スキャンダル』で実在のニュースキャスターを演じた際、特殊メイク担当にカズ・ヒロ氏を指名。氏は同作で2度目のオスカーを受賞しました。シャリーズは彼に絶大な信頼を寄せています。

二人のオードリーをじっと見つめて、シャリーズは「年老いた方の彼女に目が引き寄せられてしまう」とヒロ氏に言います。若いオードリーはとても美しいのに、どうして年老いた方に目が引きつけられるのか。その顔には彼女が20代から60代までをどのように生きたのかが刻まれているからだとわかった、歳をとることの捉え方が変わった、と。

若い頃のオードリーを人生という本の第2章とすれば、最終章がどこになるかは、生きてみなければわからない。人生という本はあらかじめ筋書きが用意されているのではなく、自分で書きながら埋めていくもの。しかも、小説を書くようには生きられません。必ず望んでもいなかったことが起き、起承転結なんてつける余裕もなく日々をつなぐのです。

ある日、ふとこれまでに埋めたページを読み返して、一つの筋を見出します。誰の人生も、小説のように読むことはできるのです。しかも、いく通りにも。20代のオードリーにはまだ書き込まれていないことが、60代の表情には刻まれている。30、40、50代にオードリーが何を人生から学んだのかを、60代の顔は饒舌に語ります。

誕生日が特別なことではなくなった頃には、鏡の中に読み応えのある本が映っている。なのについ、その表紙に「もう昔のようではない私」というタイトルをつけてしまうのですね。20代の頃を重ねて、自分は貧しくなったと思ってしまう。

私たちは、泣いて、笑って、考えて、怒って、信じて、傷ついて、愛し、愛されて生きています。絶え間なく移ろう心を素直にさらし、あるいは笑顔で巧みに覆い隠して、「わたし」を形作る。その記録は確実に刻まれるのです。

人生は一冊の本。顔はその表紙なのかも。/小島慶子
人生は一冊の本。顔はその表紙なのかも。/小島慶子
人生は一冊の本。顔はその表紙なのかも。/小島慶子
トップス・スカート @tomoumiono
アクセサリー@cherrybrown2006
シューズ @sergiorossi

今はマスクで隠れているけれど、この不安の中で何を思い、どう生きたかは、晴れてマスクを外した時に、はっきりと表れていることでしょう。

痛みの記録かもしれない。学びの記録かもしれない。どんな変化であっても、それは懸命に生きた証左です。いい顔してるね!と言い合って、思い切りハグし合う日が、早く訪れますように。

人生は一冊の本。顔はその表紙なのかも。/小島慶子
誕生日に、スタイリストさんとヘアメイクさんから素敵なイタリア製のマスクケースをいただきました!有難う!嬉しい!!
SERAPIAN(セラピアン)
@serapianmilano
小島慶子  
タレント、エッセイスト
仕事のある日本と、家族と暮らすオーストラリアのパースを毎月往復する出稼ぎ生活。 『るるらいらい~日豪往復出稼ぎ日記』(講談社)、『解縛(げばく)』(新潮社)、小説『わたしの神様』(幻冬舎)、小説『ホライズン』(文藝春秋)、新刊に『幸せな結婚』(新潮社)がある。