
久しぶりに新調したロングコート
小島慶子
気づけばもう10年以上経っていました。
毎年、大活躍しているダウンコート。
アルバムを見ていたら、子供達がうんと小さかった頃に着ている。
あれ?これって5年くらい前に買ったんじゃないの?
でもよく考えたら、15年近く前でした。
確か最初の育休から復帰して、ちょっとしたころ。
仕事の合間に青山のダイアン・フォン・ファステンバーグに
ふらっと入って、見つけたのでした。
あったかくて軽いダウンが欲しい、でも幼虫みたいにならないやつ。
これが難題でした。でも目の前のコートは、まさに幼虫フォルムではなく
生地もサテン地のような光沢があって、理想とぴったり。
「DVFで初めて作ったダウンコートなんです」
と、確か店員さんが言っていたっけ。
10年以上着ているDVFのダウンコート。これにサルトルのロングブーツとヒートテックのタイツがあればかなりの寒さもしのげます。
それから毎年毎年大活躍。
全然アウトドアっぽいデザインじゃないのに、
家族で行った冬の小渕沢や軽井沢でも、寒さが全く気にならなかったほどの実力でした。
今年は新調しようかな・・・とモンクレールの前を通るたびに思うのだけど、
どうしてもこのデザインが好きなのです。
もし買い換えなくちゃならないなら、できれば全く同じものが欲しい。数年前はbuymaで見かけたけど、流石にもうないだろうなあ。
そんなわけで厚手のダウンコートはこれ一枚で通していますが、今年はロングコートを二着買いました。
一つはパステルブルー、一つは黒。
きれいなブルーが気に入って買ったBORDERS at BALCONYのロングコート。冬は色が少ないので鮮やかなコートは気持ちが華やぎます。柔らかくて軽いのもいいです。
CLANEのロングコート。実はポケットのところから腕を出すこともできるので羽織って着るスタイルもできる優れもの。172センチの私でもたっぷりの丈です。
これまた大活躍です。足元が隠れるって、なんて暖かいのでしょう。
実は黒いコートは、父の葬儀に着ていくために買ったのです。
急なことで、しかも冬場の葬儀は初めてで、コートがない!と気づいたときには葬儀の2日前。
だけどいわゆるフォーマルウェア用は滅多に使わないから勿体無いし、身内だけの葬儀だから普段も使えるデザインのものないかしらと頭はぐるぐる。
いつもお願いしているメイクのナカちゃんは私と同じくらい背が高くて、着ているものが素敵なのでどこで買っているの?とよく聞いているんですが、今回もまた彼女が救ってくれました。
メイク中に「CLANEならいいかも!」と聞いて、その場でサイトを見たらバッチリのロングコートを発見。
速攻で表参道ヒルズのお店に電話したら在庫があるというので、青山で仕事を終えた足で飛び込んで、閉店20分前に無事コートをゲットできたのでした。
翌日、仕事に来て行ったら暖かさも軽さもデザインもバッチリで、ナカちゃんはじめみんなが褒めてくれたので大満足。
ロングコートは重いと思っていたけど、柔らかくて軽いウールでとても使いやすい。急ぎの買い物でいいものが手に入って、なんだかすごい達成感です!
父とのお別れは、家族だけのささやかなものだったけど、とても父らしい、いいお葬式でした。
小さな箱に入って母の膝に抱かれ、去って行く父を見送って一人、タクシーが来るまで寒空の下に立っていました。
私は忙しかった父のことをほとんど知らないまま、お別れしてしまったな。だけど不思議なことに、看取りからのこの短い日々で、父のことがすごく身近に感じられるようになったのでした。
いるといないって、なんだろう。近いと遠いって、なんだろう。風は冷たかったけど、柔らかな空気が私を包んでくれました。
黒いロングコートは、今やすっかり愛用品。これもきっといつか
気づけば10年以上も経っていた・・・って、びっくりするのかな。
夜の表参道をひた走った、あの夜。父を思った、曇り空。
思い出はいつも、切なくて温かいです。
先日の収録で。濃いピンクのアイテムが一つあると便利ですよね。ニットでもスカートでも、冬の装いのポイントになるので便利です。
お正月はオーストラリアに戻りました。これは南極海。アルバニーという街のリトルビーチというそれはそれはきれいなところです。
Article By Keiko Kojima
小島慶子(タレント、エッセイスト)
仕事のある日本と、家族と暮らすオーストラリアのパースを毎月往復する出稼ぎ生活。 『るるらいらい~日豪往復出稼ぎ日記』(講談社)、『解縛(げばく)』(新潮社)、小説『わたしの神様』(幻冬舎)、小説『ホライズン』(文藝春秋)、新刊に『幸せな結婚』(新潮社)がある