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おうち時間で思う、小さな世界とのつながり 小島慶子

外出自粛が続く中、家で過ごす時間が増えた人も多いでしょう。もう慣れましたか?それともげんなりしてますか。

私も東京でずっと一人で巣篭もりしています。

もともと部屋にいるのが好きなのですが、2週間ほどでさすがに仲間が欲しくなりました。

そこで、秋まで咲くバラとアルストロメリアの鉢をオンラインで購入。ワンルーム賃貸の殺風景な窓の眺めが一気に華やかになりました。

今は近所のお花屋さんも閉まっているので、久々に生花に触れられてとても嬉しい!

おうち時間で思う、小さな世界とのつながり 小島慶子

ベランダに植物を置く最大の効用は、日光浴の機会が増えること。

起きたら水やりのためにベランダに出て、背中に日差しを浴びながら古い花をむしったり、枝を剪定したり。それから、立ち上がって景色をよく眺めるようになりました。

4年も住んでいるけど、こんなに遠くまでじっと眺めたこと、なかったな。忙しくて自宅にいる時間も少なかったから、あまりベランダにも出なかったし。

でも、住めば都。毎日長時間部屋にいるうちに、緑のない都会の眺めにもだんだんいろんな感情を覚えるようになりました。懐かしさとか、安らぎとか、親しみとか。

遠くのビルの窓を数えて、あそこにも私みたいに一人で巣篭もりの人が住んでいるかもな、なんて想像すると、ちょっとだけ寂しさが紛れます。

夜になれば明かりの数だけ人の暮らしがあるわけで、色彩あふれる都会の夜に救われています。

植物がそばにある喜びは、変化を見られること。朝、カーテンを開けて、花の様子や新芽の伸び具合を確かめるのが楽しみになりました。

新しく何かが生まれる営みを間近に見るのって、心の健康にとてもいい気がします。今は命に関わるような暗いニュースが溢れているので、尚更そう感じるのかもしれません。気にかけて手入れをする対象があると、自分自身もケアされているような気持ちになりますよね。

そういえば、父も母も、植物が好きな人でした。

父は商社勤務で猛烈に忙しかったのですが、日曜日には庭の手入れをよくしていました。

両手で大きな植木バサミを使って金木犀を刈り込んだり、高枝切り鋏で木蓮の樹形を整えたり。そばで見ている私は、父が梯子から落ちたらどうしようとハラハラしたものでした。

植え込みのツツジも高さを揃えてきれいに刈り込んでいたっけ。多忙な父にとって、あれはいいストレス発散だったのだと今はわかります。

美しく整った庭を眺めては、ローンを組んで郊外に持ち家を建てたことを誇らしく思ったのではないかなあ。

私の一番のお気に入りは、ピンク色の愛らしい花をたくさんつける、庭の真ん中にあるカイドウでした。ドウダンツツジのぷっくり丸い花はスズランそっくりで愛らしかったし、手のひらよりも大きなモクレンの花弁は、心が清まるような白さでした。

梅、沈丁花、金木犀。季節ごとに香りのある花が咲いて、梅雨時には紫陽花が咲いたっけ。秋には紅葉が色づいて、冬は母が植えた水仙が咲きました。

こうして思い出すと本当に、あの庭は両親合作の作品だったんだな。父が生きているうちにそのことに気がついていたら、いいお庭だったよね、って言ってあげられたのにと悔やまれます。

母は、いわゆる緑の親指の持ち主。何を育てても生き生きと長持ちするのです。

家の中には、ポトス、オリヅルラン、ベゴニアなどが元気に育ち、庭の花壇にはチューリップ、クロッカス、パンジーなどがとりどりに咲いていました。

父が他界した後に母が一人暮らしをしている部屋にも、たくさんの植物があります。今は外出自粛で会うことができませんが、電話の向こうの母が元気なのは、植物たちのおかげかも。

父も母も、決して子育てが上手だったとは言えないけれど、不器用な彼らなりに愛情を注いでくれたのだと思います。

あんなに木や草花がきれいに咲いていたのだから、思いのある人たちだったことは確かです。

寂しい子どもだった父と母が大人になって家庭を持ち、幸せを作ろうと懸命に生きたことが、あの美しい庭には表れていたんだなと、思い出したらちょっと泣けてきました。

今、ベランダのバラは蕾が全部開き終わって、次の芽が伸びてきたところ。

アルストロメリアは驚くほど花持ちが良く、いつも満開です。

おうち時間で思う、小さな世界とのつながり 小島慶子

天気がいいので水をやろうと屈んだら、何やらひっくり返ってジタバタしている丸い影・・・テントウムシです。

おうち時間で思う、小さな世界とのつながり 小島慶子

初めて来てくれたお客さん!嬉しくて、そっと指に止まらせて花の隙間にお迎えしました。もしかして、父が私の小さな庭づくりを見にきてくれたのかな?

まだ巣篭もりは続きそうだけど、次のバラの蕾の登場を今か今かと待ち望む毎日です。

大きな不安の中にあるからこそ、小さな視点で世界とのつながりを取り戻したい。

おうち時間で思う、小さな世界とのつながり 小島慶子

皆さんもどうぞお健やかにお過ごしください。一緒に乗り切りましょう。

小島慶子  
タレント、エッセイスト
仕事のある日本と、家族と暮らすオーストラリアのパースを毎月往復する出稼ぎ生活。 『るるらいらい~日豪往復出稼ぎ日記』(講談社)、『解縛(げばく)』(新潮社)、小説『わたしの神様』(幻冬舎)、小説『ホライズン』(文藝春秋)、新刊に『幸せな結婚』(新潮社)がある。